鉄系超伝導体において, 超伝導発現の母胎である正常電子状態の理解が急務であったが, その解明が急速に進んでいる. 特に 2013 年の FeSe における「非磁性電子ネマティック状態」の発見は, それまで標準理論とみなされてきたスピンネマティック理論の見直しを迫る出来事(パラダイムシフト)であり, スピン揺らぎと軌道揺らぎを対等に考慮する理論の進展のきっかけとなった. 本稿では, 平均場近似を超えた多体効果であるバーテックス補正を考慮した理論の進展を紹介する. 非磁性電子ネマティック秩序の正体は, バーテックス補正を起源とする新規な軌道秩序であり, 本理論に基づき FeSe をはじめ代表的な鉄系超伝導体が示すバラエティー豊かな相図が統一的に理解できる. さらに FeSe で実現する “符号反転軌道秩序”をはじめとする正常状態の key experiments が定量的に再現される.
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