固体中の伝導電子の速さは光速の千分の1程度だが、条件が揃うと相対論的粒子に類似した挙動を示す。このような広義のディラック電子系はグラフェン、ビスマス、有機導体など広範な物質において見出され、固体物理の主要な研究テーマの一つとなっている。近年ではディラック電子間のクーロン相互作用に起因する新物性が次々と見出され、新たな広がりを見せている。中でも有機導体のディラック電子系では、電荷秩序相とゼロ質量ディラック電子相が隣接し、圧力により電子相関の強度を制御できるディラック電子系が実現している。本稿では、有機導体のディラック電子系において見出された多彩な競合現象や新奇なスピンゆらぎを中心に、ディラック電子系における電子相関効果を解説する。
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