銅酸化物高温超伝導体の相図
1986年の銅酸化物高温超伝導体の発見を契機に、強相関電子系の研究は隆盛を極めている。この系では発達したスピン揺らぎが、Tc以下でd波クーパー対を媒介する。高温超伝導体の研究は、強い電子相関に阻まれて停滞した時期があったが、実験技術の向上と理論手法の発展との相乗効果により、最近5年間で新展開を見せている。特に「電荷液晶秩序」とも呼ばれる、多彩な自己組織化現象に注目が集まっている。
温度T*以下で状態密度が低下する「擬ギャップ現象」は、銅酸化物高温超伝導体における最重要問題である。最近の共鳴X線散乱や、走査型トンネル電子顕微鏡(STM)の測定により、T*より低温のTCDWで「ストライプ状の電荷液晶秩序」が観測され、擬ギャップの解明の手掛かりとして注目を集めている。我々は、鉄系超伝導体の研究で開発した軌道秩序の理論を銅酸化物超伝導体に適用し、高次の多体効果である(バーテックス補正)を考慮することで、ストライプ状の電荷液晶秩序を説明した[1-3]。特に、STMで観測された「幸坂ストライプ」の再現に成功した。
我々は更に、擬ギャップ温度T*において、多体効果により電子系の回転対称性が自発的に低下する「一様な電荷液晶秩序」が生じることを明らかにした[4]。本理論は、京大松田研の磁場中トルク測定により見出されたT*における回転対称性の破れを満足に説明する。酸化物高温超伝導体の高いTcは、強いスピン揺らぎと電荷揺らぎの協力により実現している可能性があり、今後の研究の進展が期待される。
[1] Y. Yamakawa and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 114, 257001 (2015).
[2] M. Tsuchiizu, Y. Yamakawa, and H. Kontani, Phys. Rev. B 93, 155148 (2016).
[3] K. Kawaguchi, Y. Yamakawa, M. Tsuchiizu, and H. Kontani, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 063707 (2017).
[4] M. Tsuchiizu, K. Kawaguchi, Y. Yamakawa, and H. Kontani, Phys. Rev. B 97, 165131 (2018).