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シリコン点欠陥における強相関・強結合量子状態

山川 洋一 氏
Youichi Yamakawa
新潟大学大学院自然科学研究科

2009年5月21日(木) 17時15分

シリコン単結晶は、現在最も高純度な結晶の一つである。近年、20Kから20mKという非常に低温領域の超音波測定により、その高純度の結晶が、結晶中に極微量にしか存在しないはずの原子空孔によって、異常なソフト化を示すという実験結果が報告された[1]。同様のソフト化は、充填スクッテルダイト等のかご状物質でしばしば見られるが[2]、なぜ元素も構造も全く違うシリコン単結晶で似た振る舞いが現れるのかは、この現象の理解に重要な点である。一方、シリコン原子空孔の微視的理論は先行研究が有り、四半世紀前にはすでに完成されたと言われているが[3,4]、電子相関効果を平均場近似、電子フォノン相互作用を古典的な格子歪みで近似したこれらの理論では、この極低温での異常物性を説明できない。そこで本研究では先行研究の理論を拡張したクラスター模型を導入し[5]、原子空孔における電子格子系の強相関・強結合量子状態を調べた。その結果、電子フォノン相互作用によって、ソフト化の起源となる軌道3重縮退を持つ基底状態が安定化する事、ボロンをドープした際にはスピン1/2の磁場依存性を持つ状態が安定化する事を明らかにした。これらの結果は、超音波実験の結果とコンシステント[1]だが、ヤーン・テラー歪みによって基底状態の縮退を解くという先行研究の結論[3,4]と対照的であり、極低温における強相関・強結合効果の重要性を表している。

[1] T. Goto, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 75 (2006) 044602.
[2] Y. Nemoto, et al., Phys. Rev. B 68 (2003) 184109.
[3] M. Schlueter, Proc. Int. School of Physics "Enrico Fermi" (North Holland, Amsterdam, 1985) 495.
[4] G.A. Baraff, E.O. Kane and M. Schlueter, Phys. Rev. B 21 (1980) 5662.
[5] Y. Yamakawa, K. Mitsumoto and Y. Ono, J. Phys. Soc. Jpn. 77, (2008) Suppl. A 266.