2010年4月13日 10時30分
これまで分子性固体の物性研究においては、1分子を1サイトとする単軌道の強束縛模型が大きな成功を収めてきた。しかし近年、単一成分金属[M(tmdt)_2]において発見された金属性や分子内反強磁性が複数の分子軌道の混成によるキャリア生成に起因していることが指摘されるなど、分子の多軌道性が「再発見」されつつある。擬一次元導体(TTM-TTP)I_3は、[M(tmdt)_2]に続く多軌道系分子性固体である。その組成比が1:1であることからMott絶縁体もしくは[2020]型のCO状態にあると考えられてきたが、低温相において分子内電荷秩序の状態にあることが実験的に指摘された。今回の発表では、この分子内電荷秩序状態がHOMOとそのひとつ下のエネルギー準位を持つ分子軌道HOMO-1が作る軌道秩序状態として理解できることを報告する。特に汎関数繰り込み群法を用いて、(1)2軌道の混成によってHundカップリングおよび軌道交換相互作用が後方散乱・Umklapp散乱の逆符号発散を導き、これが軌道秩序状態(=分子内電荷秩序状態)を誘起すること、(2)相互作用の波数依存性を有意に考えた結果、非磁性相の領域拡大が得られたこと、の2点を、初めて聞く学生の方にも分かりやすいように紹介する予定である。