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Au-Al-Yb準結晶における量子臨界現象

出口和彦 氏
Kazuhiko Deguchi
名古屋大学 大学院理学研究科

2012年10月5日 13時30分 理学館614

D. Shechtman(2011年 Nobel化学賞)らによって1984年に発見された準結晶は、「結晶では許されない回折対称性」と「準周期性」が特徴である[1]。その構造は長距離にわたる規則性(準周期性)の存在を示しているが、等間隔には並んでおらず、この構造は周期的ではない。これまでの研究により、準結晶の構造に関する基礎概念は確立され、その電子状態についても、通常の結晶におけるBloch定理は成り立たず、波動関数が系全体に広がることはできないと考えられる。また、長距離の磁気秩序等への相転移が見出されていないなど、準結晶の電子状態は結晶の電子状態とは大きく異なると考えられている。しかし、現時点で準結晶に特有の異常な電子状態に起因する特異な物性は観測されていない。

希土類元素の両端付近に位置するCeやYbなどを含む結晶では、重い電子の形成、磁気秩序や超伝導など多様な秩序状態、価数揺動に伴う興味ある現象・電子物性が観測されている。準周期系におけるこれらの現象、準結晶の異常な電子状態と関係した物性に興味がもたれる。近年、石政らによって新しい構造タイプ(Tsai型)に属する一連のZn基、Cu基などの安定準結晶の探索と合成が行われ、その過程で準結晶としては初めて希土類元素Ybが中間価数状態にあり、磁性を持つ新物質:Au-Al-Yb準結晶を発見された[2]。

今回我々は、Au-Al-Yb準結晶において初めて準結晶における量子臨界現象を発見した。さらに、量子臨界現象が圧力に対して変化しないことがわかった。また、同じ原子のクラスターが準周期的に配置した準結晶と周期的に配置した近似結晶を比較することによりこの量子臨界現象が準結晶の異常な電子状態(臨界状態)を反映していることを見出した。準結晶の異常な電子状態が4f電子の強い電子相関を通して発現した結果であると考えられる。最後に、結晶と準結晶の共通点から見出される物理についても議論する予定である。

[1] D. Shechtman et al., Phys. Rev. Lett. 53, 1951 (1984).
[2] T. Ishimasa et al., Phil. Mag. 91, 4218 (2011).