2013年10月18日 10時30分 理学館614
銅酸化物超伝導体に次いで高い転移温度を持つ鉄系超伝導の発見から5年経つが、その超伝導ペアポテンシャルの対称性については今も尚議論が続いている。鉄系超伝導体は電子ポケットとホールポケットを持つマルチバンド超伝導体であるが、その両ポケットがフルギャップのペアポテンシャルを持つことが様々な実験から示唆されている。一方、理論的には両ポケット間でペアポテンシャルの符号が異符号であるs±波と、同符号であるs++波が提唱されている。両ポケット間のペアポテンシャルの位相差を直接観測するためには、トンネルコンダクタンスやジョセフソン電流等の位相敏感な実験が不可欠である。 本講演では、鉄系超伝導体におけるトンネルコンダクタンスやジョセフソン電流の理論的な計算から、s±波とs++波の実験的な判別手法について提案する。金属/鉄系超伝導体の接合系におけるトンネルコンダクタンスについては、鉄系超伝導体のフェルミ面が大きな場合に軌道間散乱の寄与が増大し、s±波とs++波の間に明確な差が現れる。また、通常s波超伝導体/1伝導チャンネルワイヤ/鉄系超伝導体のc軸ジョセフソン接合においては、ワイヤと鉄系超伝導体の接合の種類(ポイントコンタクト、トンネルジャンクション)によって、ジョセフソン電流に対する電子ポケット及びホールポケットの寄与大きさを変化させることが出来る。この特性を利用し、ポイントコンタクト及びトンネルジャンクションを組み合わせたジョセフソンループによってs±波とs++波の判別が可能であることが分かった。時間に余裕があれば、鉄系超伝導体と同じく、複数のフェルミ面を持つ超伝導体Sr2RuO4のコンダクタンスにおける多バンド効果についても紹介する予定である。