2014年12月22日(月) 13時30分 理学館614
磁気量子臨界点近傍の強相関電子系では多体効果のため異常な電荷輸送が観測される。たとえば、反強磁性量子臨界点近傍における、温度に線形に比例する電気抵抗やCurie-Weiss的な温度依存性の通常ホール係数が挙げられる。銅酸化物高温超伝導体における異常な電荷輸送の解明を目指す1軌道ハバードモデルの研究[1]により、反強磁性量子臨界点近傍で増強するスピンゆらぎのCurie-Weiss的温度依存性が特定の波数の準粒子ダンピングや電流のバーテクス補正の温度依存性に著しい変化をもたらすこと、その結果として通常のフェルミ液体的挙動からずれた電荷輸送が発現することが明らかにされた。 しかしながら、1軌道ハバードモデルの研究[1]で重要性が明らかにされた、準粒子ダンピングや電流のバーテクス補正の影響を十分に考慮した多軌道強相関電子系の電荷輸送の理論は存在しなかった。それに加え通常のフェルミ液体的挙動からずれた輸送現象はRu酸化物などの多軌道系でも観測される[2-4]ので、多軌道強相関電子系の電荷輸送の理論の必要性が高まってきた。 そこで、比較的単純な電子構造をもつRu酸化物を念頭に、t2g軌道ハバードモデルの金属相の面内電気抵抗と通常ホール係数を久保公式とEliashberg理論[5]に基づいて導き、ゆらぎ交換近似に真木-Thompson型の電流のバーテクス補正を考慮した手法を使い、反強磁性量子臨界点近くと離れている場合の2つの場合のそれらの輸送係数の温度依存性を調べた[6]。 本講演ではRu酸化物の有効モデルの面内電気抵抗と通常ホール係数の温度依存性に対する多体効果や多軌道効果について話す。特に、1軌道ハバードモデルの先行研究[1]の結果との比較により、軌道自由度の有無によらず実現する反強磁性量子臨界点近傍の性質や多軌道系特有の性質について紹介する。また、得られた結果と実験結果[2,7]との対応についても触れる。 [1] H. Kontani et al., Phys. Rev. B 59, 14723 (1999); Y. Yanase, J. Phys. Soc. Jpn. 71, 278 (2002). [2] N. Kikugawa and Maeno, Phys. Rev. Lett. 89, 117001 (2002). [3] S. Nakatsuji and Maeno, Phys. Rev. Lett. 84, 2666 (2000). [4] L. M. Galvin et al., Phys. Rev. B 63, 161102(R) (2001). [5] G. M. Eliashberg, Sov. Phys. JETP 14, 886 (1962); H. Kohno and K. Yamada, Prog. Theor. Phys. 80, 623 (1988). [6] Naoya Arakawa, Phys. Rev. B 90, 245103 (2014). [7] A. P. Mackenzie et al., Phys. Rev. B 54, 7425 (1996).