本文へスキップ

奇周波数クーパー対の最近の話題

田仲由喜夫 氏
Yukio Tanaka
名古屋大学大学院 工学研究科

2015年6月3日(水) 10時30分 理学館614

 スピン1/2の電子(粒子)2個からなるクーパー対は、これまで良く知られているように、スピン1重項偶パリティとスピン3重項奇パリティの2種類に大別される。これらはクーパー対の対関数が2電子の入れ替えに対して反対称であるというフェルミ統計性に由来する要請を満たしている。すなわち、スピン1重項の場合には対関数のスピン部分が、スピン3重項の場合には対関数の軌道部分が、2電子の入れ替えに対して反対称となっている。しかしクーパー対の対関数は、一般に2電子の相対時間の関数でもあり、2電子の時間の入れ替えによって対関数が反対称となることも可能で、そのようなクーパー対は奇周波数クーパー対と呼ばれている。奇周波数クーパー対はBerezinskiiの70年代の予言以来脈々と研究されてきたがバルクの系での奇周波数ギャップ関数としての実現は未解明である[1]。2001年、強磁性体接合でペア振幅としての奇周波数クーパー対の存在が指摘され[2]、さらに不均一な超伝導・超流動では並進対称性の破れにより遍く存在していることがその後に明らかになった[3]。特にアンドレーエフ束縛状態は奇周波数ペアとして記述され[3]、マヨラナフェルミオンが存在する際に、必ず奇周波数ペアが存在することが明らかになっている[4]。これらの対称性の破れにより誘起されるクーパー対は、外部磁場に対して、パラマグネティックに応答する(超流動密度負のクーパー対ができるか)ことが明らかになっている[3]。一方このようなクーパー対はバルクの状態では不安定なためにディアマグネティックに応答するクーパー対がバルクの状態で存在し得るのかが検討された。最近バルクの奇周波数Gap関数の安定性に関する理論が提案され、ディアアマグネティックな応答をする奇周波数ペア関数が汎関数積分理論で議論された[5]。この理論で得られる奇周波数Green関数(異常Green関数)の数学的構造は、バルクの偶周波数ペアを作り出す平均場ハミルトニアンが存在するときに対称性の破れ(不均一系や磁性体接合)で得られる奇周波数Green関数と根本的に異なる[6]。このようなディアマグネティックな応答をするクーパー対とパラマグネティックな応答をするクーパー対が共存すると虚数の超流動密度や虚数のジョセフソン結合といった困難な問題が生じることをこの発表では示したい[7]。

[1] V. L. Berezinskii: JETP Lett. 20 287 (1974).

[2] F. S. Bergeret, A. F. Volkov, and K. B. Efetov: Phys. Rev. Lett. 86 4096 (2001).

[3] Y. Tanaka, M. Sato and N. Nagaosa, J. Phys. Soc. Jpn. 81 011013(2012), Y. Tanaka, et al, Phys. Rev. Lett. 99 037005 (2007).

[4] Y. Asano and Y. Tanaka, Phys. Rev. B, 87 104513 (2013).

[5] H. Kusunose, Y. Fuseya, and K. Miyake, J. Phys. Soc. Jpn., 80 054702 (2011) and J. Phys. Soc. Jpn., 80 054702 (2011).

[6] Y. Asano, Y. V. Fominov, Y. Tanaka, Phys. Rev. B 90 094512 (2014).

[7] Y. V. Fominov, Y. Tanaka, Y. Asano, M. Eschrig, Phys. Rev. B 91 144514 ( 2015).