本文へスキップ

BCS-BECクロスオーバー域における超伝導ゆらぎ・次元性の効果

足立景亮 氏
Kyosuke Adachi
京都大学大学院 理学研究科

2018年2月15日(木) 13時30分 理学館614

 銅酸化物高温超伝導体では、転移温度が高くコヒーレンス長が短いことに加え、異方性(二次元性)が強いことに起因して超伝導ゆらぎの効果が顕著に現れることが知られている。超伝導ゆらぎは、有限の寿命をもつCooper対によって引き起こされる超伝導秩序の前駆現象であり、主に転移温度近傍で電気伝導や比熱、反磁性応答などに影響を与える。さらに磁場中では有効的な空間次元の低下が生じる[1]ため、強いゆらぎによって超伝導秩序が破壊され、渦糸液体と呼ばれる状態が現れる。このような超伝導ゆらぎの性質は、弱結合近似に基づく理論でうまく説明されてきた。

 一方、近年注目を浴びている鉄系超伝導体FeSeでは、銅酸化物超伝導体に比べると転移温度は低く、比較的長いコヒーレンス長をもつ。しかし、反磁性応答に注目すると超伝導ゆらぎの効果が強く現れていることが明らかにされてきた。特に、弱結合近似に基づく結果に比べて10倍程度も大きな反磁性磁化率が観測されている[2]。一方、 FeSeの超伝導相に目を向けると、超伝導ギャップの大きさがFermiエネルギーに匹敵するという新奇な特徴をもつ。この特徴は、電子間引力が強くはたらくBCS−BECクロスオーバー域において超伝導が実現されていることを示唆している[3]。そのため、クロスオーバー域の特徴を加味して弱結合近似を超えた理論的取り扱いをすることによってFeSeで観測された超伝導ゆらぎの特徴が理解できる可能性がある。そこで我々は、単純なモデルハミルトニアンを出発点にとり、弱結合近似を超えてクロスオーバー域に特有の化学ポテンシャルのシフト[4]を取り入れ、さらにHartree-Fock近似の範囲でゆらぎ間相互作用を加味した上で比熱と反磁性応答を計算した。その結果、クロスオーバー域ではゆらぎ間相互作用が非常に強くなり、弱結合近似で得られる結果と比較して比熱や反磁性磁化の顕著な増大につながることがわかった[5]。

 また、クロスオーバー域にある格子系で生じる超伝導の先行研究では、主に異方性が非常に強い銅酸化物超伝導体が念頭に置かれ、ハーフフィリング近傍にある二次元系が対象とされてきた[6]。一方、上述のFeSeはキャリア密度が低く、また層状構造を反映した異方的三次元系となっている。そこで我々は、化学ポテンシャルのシフト[4]を考慮することでクロスオーバー域における異方性あるいは次元性の効果を調べた。特に、低次元化によって二電子束縛状態が出現することに着目し、転移温度やペア形成温度、クロスオーバー域に特有の擬ギャップの構造を調べた。その結果、次元性の変化に伴ってBCS-BECクロスオーバーが生じうることを明らかにした。

[1] R. Ikeda et al., J. Phys. Soc. Jpn. 58, 1377 (1989).

[2] S. Kasahara et al., Nat. Commun. 7, 12843 (2016).

[3] S. Kasahara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 111, 16309 (2014).

[4] P. Nozieres and S. Schmitt-Rink, J. Low Temp. Phys. 59, 195 (1985).

[5] K. Adachi and R. Ikeda, Phys. Rev. B 96, 184507 (2017).

[6] Y. Yanase and K. Yamada., J. Phys. Soc. Jpn. 68, 2999 (1999).