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レーザー励起光電子顕微鏡で観測する鉄系超伝導体のネマティック秩序

元結 啓仁
Yoshihito Motoyui
東京大学 物性研究所

2019年2月4日 11:00~ 理学館506

近年、多くの強相関物質において電子系の回転対称性が自発的に破られている電子ネマティック相が発見されている[1-3]。鉄系超伝導体の母相もネマティック秩序であると考えられ、これまでマクロスコピックな測定によりその電子状態が調べられてきたが、局所的な不純物や歪み等の外因的ネマティシティの可能性を排除できず[4]、統一的な議論を行うことは困難であった。そこで空間分布を含めたネマティック秩序描像の評価が求められている。

我々が開発を行ってきたレーザー励起光電子顕微鏡では、nmオーダーの高い空間分解能で軌道状態に敏感なイメージングを行うことができる[5]。そして最近、世界で唯一の極低温(~15 K)測定も可能となったことで鉄系超伝導体のネマティック秩序の観測に成功した。特にBaFe2(As1-xPx)2系のx=0.13試料では、格子のorthorhombicityが生じるTSより高温側にて空間的に一様なネマティシティを観測した。これはT>TSにおける長距離秩序の存在を意味する。また温度依存性や空間構造において異常なふるまいが見られたので、併せて本コロキウムで紹介したい。

[1] R. A. Borzi et al., Science 315, 214 (2007).
[2] S. Kasahara et al., Nature 486, 382 (2012).
[3] J. Wu et al., Nature 547, 432 (2017).
[4] W. Wang et al., Nat. Commun. 9, 3128 (2018).
[5] T. Taniuchi et al., Rev. Sci. Instrum. 86, 023701 (2015).