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強相関電子系の表面がもたらす多彩な量子臨界現象の理論

松原 舜 氏
Shun Matsubara
名古屋大学 大学院理学研究科

2021年10月12日(火) 10:30~ 理学館506

強相関電子系において、表面や不純物といった並進対称性を破る実空間構造は、バルクでは見られない面白い現象の宝庫である。例えば、d波超伝導体の(1,1)エッジに形成されるアンドレーエフ束縛状態[1]は、状態密度の増加によって電子相関を増強し、新奇な超伝導状態を生じさせる可能性がある。

そこで、本研究では、バルクd波超伝導状態下の銅酸化物のYBa2Cu3O7-x(YBCO)を想定した2次元ハバードモデルに(1,1)エッジを導入し、スピン感受率を実空間の乱雑位相近似(RPA)、揺らぎ交換近似(FLEX近似)によって計算した。その結果、エッジにおいて強磁性揺らぎが顕著に発達し、トリプレット超伝導の出現に有利な状態が実現するという結果が得られた[2]。

次に、エッジに生じるトリプレット超伝導を線形化ギャップ方程式によって解析した。偶周波数超伝導を仮定した場合には、エッジに局在したp波超伝導の解が得られ、時間反転対称性の破れた「表面d+ip波状態」が実現することが分かった[3]。一方で、ギャップ関数の振動数依存性を考慮した解析では、奇周波数s波超伝導の解が得られ、時間反転対称性を保った「表面d+sodd波状態」が実現し、エッジに沿ってスピン流が流れるという結果を得た。また、磁気臨界点近傍では、奇周波数s波超伝導の方がp波超伝導より起こりやすいことが分かった[4]。以上の研究により、強相関電子系の表面は、電子相関の増強や、p波超伝導、奇周波数s波超伝導などの多彩な現象を誘起することが予言された。

一方で近年、ARPESの実験によって、FeSeのネマティック秩序下でのY点電子面の消失が報告されている[5]。理論としては、スピン揺らぎ間の量子干渉効果を取り扱うDensity-Wave (DW)方程式のxz,yz軌道に対する解析が行われており、Γ点、X点のフェルミ面は実験と整合するが、Y点の電子面は消失しない[6]。本研究では、xz,yz軌道に加えてxy軌道を考慮したDW方程式を解析し、xy軌道のボンド秩序によって、Y点電子面が消失する結果を得た。以上より、FeSeのネマティック秩序は、量子干渉効果によって説明できることが分かった。


[1] Y. Tanaka and S. Kashiwaya, Phys. Rev. Lett. 74 3451 (1995).
[2] S. Matsubara and H. Kontani, Phys. Rev. B 101, 075114 (2020).
[3] S. Matsubara and H. Kontani, Phys. Rev. B 101, 235103 (2020).
[4] S. Matsubara, Y. Tanaka, and H. Kontani, Phys. Rev. B 103, 245138 (2021).
[5] M. Yi, et al, Phys. Rev. X 9, 041049 (2019).
[6] S. Onari, Y. Yamakawa, and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 116, 227001 (2016).