物質中の電子の研究がなぜ面白いのでしょうか?電子は量子力学における波動性と粒子性の二重性を持ち、波動性が優勢になると金属に、粒子性が優勢になると絶縁体になります。そして波動性と粒子性が拮抗する「強相関電子系」では、量子力学的な性質が最も顕著になり、電子系の無限の自由度と相まって、予想を超えた“物理法則・物理現象”が発現します(創発現象)。電子系がクーパー対を組む「超伝導」はその一例で、アンダーソン・ヒックス機構により光子が質量を獲得します。その結果、磁場を超伝導の外部に吐き出すマイスナー効果や、電気抵抗が完全にゼロになる完全導体が実現します。超伝導では、電子ごとにばらばらであった変数(超伝導の場合は波動関数の位相)が一つに定まる「対称性の破れ」が起きます。電子系では実に多彩な対称性の破れが実現し、現在の物性物理の中心的な課題です。
 また物質中の電子の波動関数が、格子構造に由来した「幾何学的(トポロジカル)な構造」を獲得することで、磁場を必要としない異常ホール効果や、オームの法則を超えた非線形応答が創発します。質量を持たない電子状態、いわゆるDirac電子系はその一例で、盛んに研究されています。
 そして最近では、両者が融合した「強相関トポロジー」と呼ばれる分野が勃興しています。カゴメ金属や多層グラフェンでは、トポロジーに由来する減衰しない電流を伴う「ループ電流秩序」や、回転対称性を自発的に破るネマティック秩序が創発します。さらに「補償フェリ磁性」が、電子相関とトポロジーを繋ぐ新しい対称性の破れとして、注目を集めています。
 物性理論の魅力は最先端のテーマが豊富で、かつ研究開始への準備期間が意外に短いことです。Sc研では多くの修士学生が、重要な研究の第一発見者として活躍してきました。最初に教員と相談してやりがいのあるテーマを決め、その後は短期間で教員を超えて学会で存在感を発揮する先輩が多いです。またSc研では優れた実験研究室との共同研究を強力に推進していて、やりがいのある「自然界の謎解き」が可能です(下図参照)。「優れたテーマが若手研究者を育てる」と言われます。皆さんもSc研で楽しく充実した研究生活を送りませんか?

 次に、大学院での学習内容をご説明します。

卒業研究の概要

 前期は凝縮系理論の標準的な教科書を、教員を交えて輪講し、量子多体論の基礎を習得します。参加者全員で議論を重ねて正解に到達する経験は、その後の貴重な糧となると思います。

教科書の例:
 “Statistical Mechanics: A Set of Lectures”, R.P. Feynman: 量子統計力学、第二量子化

 後期には、豊富なテーマの中から興味のある課題を選び、指導教員と共に入門的な研究活動を行います。研究成果を卒業論文にまとめて、卒研発表会で発表します。

教科書の例:
 「統計力学」 阿部 龍蔵(東京大学出版会): 場の量子論の導入、グリーン関数
 「超伝導入門 (上,下)」M. ティンカム(吉岡書店): BCS理論
 「固体の電子論 」斯波 弘行(丸善): 電子相関の基礎

卒業研究の例:
 「クーロン斥力による非従来型超伝導の理論」
 「銅酸化物高温超伝導体におけるスピン揺らぎ理論」
 「強磁場下ディラック電子のランダウ量子化」


大学院の概要

 毎週の研究室セミナーで研究の議論を行います。 また外部から講師を招く集中講義やコロキウムを開催します。 さらに「Sc研夏の学校」に向けて教科書を選び、学生主体で輪講を進めます。

 加えて修士一年では、場の理論を扱った教科書を選び、教員を交えて一年間輪講します。これにより、研究に必要な知識を自然に身に着けることができます。

教科書の例:
 “Quantum Theory of Many-Particle Systems”, A.L. Fetter & J.D. Walecka: 場の量子論
 “Theory of superconductivity”, J.R. Schrieffer: 強結合超伝導の理論
 「強相関電子系の物理」 佐宗哲郎(日本評論社): 電子相関の理論、輸送理論

 修士課程の入学後に、皆さんが興味を持つテーマに基づいて、修士論文の課題を決めます。 必要に応じて数値計算の指導も行います。研究会や日本物理学会における研究発表や、英文学術雑誌に論文を掲載することが可能です。

●最近の修士論文(工事中)

 博士課程では、指導教員や内外の共同研究者と協力しつつ、いよいよ学生主体で最前線の研究領域を開拓します。 英文論文を執筆し、国際会議で発表する機会が増えます。「学振研究員」に申請して採択されると、研究奨励金と研究費が支給されます。 Sc研の学生は高確率で学振研究員に採択されてきました。

●最近の博士論文(工事中)


入試情報

 興味のある方はぜひ入試説明会に来てください。3年生以下の学生も歓迎します。

大学院博士課程(前期課程)の募集について 

名古屋大学大学院理学研究科では、研究・教育のさらなる充実と発展のため、 令和4年4月からの専攻再編を目指して文部科学省に認可申請しております。 そのため、本年度の募集開始時期と入試日程は例年と異なります。 随時、物理教室ホームページにて最新情報をご確認ください。

2026年度入学 入試日程
入試説明会2025年5月24日(土)
自己推薦入試2025/7/19(土) - 7/20(日)
一般選抜入試2025/8/20(水) - 8/22(金)

[ 物理系教室説明会に関して ]

 全体説明会の後の研究室訪問の際に、Scグループの詳しい紹介を行います。 説明会の詳細は 物理学教室HPの説明会案内をご覧ください。 物理教室説明会に出席できない場合は、個別に対応致します。

[ 自己推薦入試に関して ]

 受験を希望される方は、入試説明会にご出席ください。受験の際には必ず、下記連絡先に事前にメールでご連絡ください。自己推薦入試の詳細は物理学教室HPの自己推薦案内をご覧ください。

[ 一般選抜入試に関して ]

 受験を希望される方には、入試説明会への出席を推奨します。 一般選抜入試の詳細は物理学教室HPの一般選抜試験案内をご覧ください。 一般選抜入試の過去問題集もこちらに掲載されています。

物理学教室発行の研究室紹介パンフレット(pdf)


最近の入学試験状況

 Sc研はこれまでに様々な大学の出身者を受け入れてきました。 学内・学外を問わず、意欲ある皆さんの応募を期待しています。

 自己推薦入試 入学者数一般選抜入試 入学者数*全入学者数* 
入学年度学内学外学内学外
 2024年度111(0)03(2)
 2023年度011(1)1(1)3(3)
 2022年度211(1)0(0)4(4)
 2021年度120(0)1(4)4(7)
 2020年度04**0(0)0(1)4(5)**
 2019年度1**41(1)0(2)6(8)**
 2018年度110(0)0(3)2(5)
 2017年度021(1)0(1)3(4)
 2016年度3**00(0)0(0)3(3)**

*括弧内は合格者数
**秋季入学者を含む


大学院生からのアドバイス

  • 私は他大学から名古屋大学の一般選抜入試を受験し、物性理論研究室に所属しています。学部生のときに行った銅酸化物高温超伝導体の実験で物性物理学に興味を持ったことがこの研究室を選んだ理由です。大学院進学当初はなにもわからない状態からのスタートでしたが、研究を通してわかること、できることが少しずつ増えていきました。この分野に興味を持つきっかけとなった銅酸化物高温超伝導体の超伝導発現機構を理解したり、最新の論文の内容が少しずつわかるようになったりと、自分の成長を感じています。研究はいつもうまくいくとは限らず、間違えては悩むことの繰り返しですが、自分の研究で世界の誰も知らない問題の答えを見つけたときは、他の事では味わえない達成感があります。現在は、助けを借りながらも自分で研究が進められるようになりました。自分が成長できたのは所属する研究室に学ぼうとすれば、それに応えてくれる環境があるためだと感じています。質問をすれば答えてくださる教員の方々、先輩、後輩関係なく議論できる雰囲気など、とても恵まれた環境が整っていると思います。やりたいことが具体的に決まっている人も、そうでない人も「やる気」さえあれば充実した研究生活が送れると思います。
    [博士課程(前期課程) 2年]

  • 私は学部3年生で習った量子力学と統計力学に興味を持ち、理論的に超伝導物質や強磁性がなぜ存在するのか研究したいと思い、その旨を自己推薦書に書きました。研究室では物性理論を専攻しており、現在コバルト酸化物の物性を研究しています。院生になると学部生のころと比べて、自分の興味のある専門的な内容を研究できます。また自分一人で研究を進めるわけではなく、週に1度同じ分野で集まり、セミナーをおこない研究内容の問題点を明らかにしたり、内容を深く理解するため議論を行っています。他にもコロキウムで他大学の研究者の自分のテーマとは異なる内容の講演を聞いたりして物性物理を広く知ろうとしています。このように院では研究室の先生及び学生同士で活発なコミュニケーションをとっているため、いままでよりも深く物理を考えるようになりました。充実した毎日を送っています。
    [博士課程(前期課程) 2年]