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電子ネマティック状態の超高速光応答と実空間分布

下志万 貴博 氏
Takahiro Shimojima
名古屋大学 理学研究科

2024年6月14日(金) 10:30~ 理学館614 および Zoom
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強相関電子系の一つである鉄系超伝導体では電子の持つスピンや軌道が秩序化することが知られている。 この秩序状態は電子の集団が自発的に回転対称性を破る「ネマティック秩序」と呼ばれており、 鉄系超伝導体において普遍的に観測される現象として知られている[1,2]。 ネマティック秩序は、電気伝導、磁気特性、超伝導状態などに異方性をもたらす重要な物理現象である。 過去の角度分解光電子分光(ARPES)から、波数空間のバンド構造に現れる電子軌道の分極(Fe 3dxz 軌道とdyz 軌道バンドのエネルギー差)を秩序変数と見なすことができる[3]。

これまで我々はこの異方的な電子状態の光応答を時間分解ARPESにより調べてきた[4]。 一般に固体にフェムト秒レーザーを照射すると、急激な非平衡状態が引き起こされる。 特に、電子と格子の温度が分離して定義されることで、熱平衡では実現しない新規な電子状態が実現することが期待される。 また、ネマティック秩序変数の空間分布をナノメートルの空間分解能を有するレーザー光電子顕微鏡を用いて調べた[5]。 強相関電子系と呼ばれる物質群では、固体中の電子が互いの運動に強い影響を及ぼしながら特殊な空間パターンを示すことがある。 講演ではこれらの実験結果を示しながら、鉄系超伝導体のネマティック秩序における電子の新規な振る舞いについて議論する。


[1] E. Fradkin et al., Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 1, 153 (2010).
[2] H.-H. Kuo et al., Science 352, 958 (2016).
[3] T. Shimojima et al., Phys. Rev. B 90, 121111 (2014).
[4] T. Shimojima et al., Nat. Commun. 10, 1946 (2019).
[5] T. Shimojima et al., Science 373, 1122 (2021).