2024年7月22日(月) 10:30~ 理学館614
局在性の強いf電子やd電子を含む系では、電子相関によって様々な量子現象が発現する。このような強相関電子系を理解するためには、原子軌道にある電子の自由度を整理する必要があり、全角運動量Jに基づく多極子演算子を考えるとわかりやすい[1,2]。多極子をJの偶奇、空間反転、時間反転に基づいて整理すると、電気多極子、磁気多極子、電気トロイダル多極子、磁気トロイダル多極子の4種に分類される。 これらの多極子は通常、実空間分布を持つ電荷・スピン・電流の多重極展開によって導入される。しかし、これらの物理量の展開からは電気トロイダル多極子は現れない。そこで、微視的な物理量について再検討したところ[3]、スピン自由度に起因する電気分極や(PS)、ディラック場に由来するカイラリティ演算子(γ5)を考える必要があることが明らかとなった。特に後者の電子カイラリティは、カイラルな系を定量化するための指標となることが期待される。また、ハミルトニアン中の高次の相対論補正項を考察すると、電子カイラリティが外場とどのように結合するかが明らかとなる。
さらにより一般的に相対論補正について考えると、クーロン相互作用に対する補正項も存在する。最近、その解析の基礎となる原子極限における表示を、電子・光子相互作用の観点から導出した[4]。本講演では、以上の電子系に対する相対論補正について、一般論と局在電子軌道に基づいた具体例に基づいて、系統的に整理した内容を紹介する。
[1] Y. Wang, H. Weng, L. Fu, X. Dai, Phys. Rev. Lett. 119, 187203 (2017).
[2] H. Kusunose, R. Oiwa, S. Hayami, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 104704 (2020).
[3] S. Hoshino, M.-T. Suzuki, and H. Ikeda, Phys. Rev. Lett. 130, 256801 (2023).
[4] S. Hoshino, arXiv:2311.05294 (2023).