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カイラル超伝導体における異常熱ホール効果

松下 太樹 氏
Taiki Matsushita
京都大学 凝縮系理論研究室

2024年8月2日(金) 10:30~ 理学館614

カイラル超伝導体において、クーパー対の軌道角運動量は偏極し、時間反転対称性を破ったトポロジカル超伝導やワイル超伝導を実現する[1]。クーパー対の軌道角運動量の偏極は特異な輸送現象を引き起こすため、カイラル超伝導は輸送現象を観測することにより立証できる[2-4]。その中でも、異常熱ホール効果は波数空間の幾何学的性質を強く反映するため、波数空間のトポロジーのプローブとして重要な位置づけにある。特に、時間反転対称性を破ったトポロジカル超伝導体においては、熱ホール伝導率の内因性機構による寄与が低温で分数量子化し、マヨラナ励起の証拠となる[2,5]。

異常熱ホール効果の機構は内因性機構と外因性機構に大別される。内因性異常熱ホール効果はベリー曲率により[5]、外因性異常熱ホール効果は不純物が準粒子を散乱することにより引き起こされる[6]。異常熱ホール効果が波数空間のトポロジーをプローブするためには、低温において、内因性機構が主要な寄与を与える必要がある。しかし、異常熱ホール効果について、内因性機構が主要な寄与となる条件は整理されていなかった。

本発表においては、カイラル超伝導体における内因性異常熱ホール効果と外因性異常熱ホール効果の競合を議論する[7]。はじめに、カイラル超伝導体の基礎物性とトポロジーを概説し、その後に、不純物による異常熱ホール効果の影響を議論する。不純物ポテンシャルが強く、不純物がフェルミ面近傍に束縛状態を形成する場合においては、低温においても外因性機構が支配的となることを示す。また、状態密度と外因性異常熱ホール効果を紐づける公式も紹介する。最後に、線ノードによる異常熱ホール効果の影響を議論する。内因性異常熱ホール効果は、低温極限で線ノードの存在に依存しない振る舞いを示す一方で、外因性異常熱ホール効果は、線ノードの存在に敏感であることを説明する。さらに、線ノードが外因性異常熱ホール効果を増強するか弱めるかは、線ノードが伴うペアポテンシャルの符号変化の有無に依存することを示す。線ノードがペアポテンシャルの符号変化を伴う場合は、外因性異常熱ホール効果を弱め、伴わない場合は、外因性異常熱ホール効果を増強することを明らかにする。


[1] M. Sato and S. Fujimoto J. Phys. Soc. Jpn. 85, 072001 (2016).
[2] N. Read and D. Green Phys. Rev. B 61, 10267 (2000).
[3] J. Goryo Phys. Rev. B 78, 060501 (R) (2008).
[4] T. Matsushita, T. Mizushima, I. Vekhter, and S. Fujimoto Phys. Rev. B 105, 134520 (2022).
[5] H. Sumiyoshi and S. Fujimoto J. Phys. Soc. Jpn. 82, 023602 (2013).
[6] B. Arfi, H. Bahlouli, C. J. Pethick, and D. Pines, Phys. Rev. Lett. 60, 2206 (1988).
[7] T. Matsushita, N. Kimura, T. Mizushima, I. Vekhter, and S. Fujimoto arXiv: 2405. 09840 (2024).